ショタコンのゆりかご・4
〜ゆりかごは方舟に〜

傍注六
本文では当時(2007年7月末時点)のカタログ編集方針を鑑みて正否を
明言しない曖昧な方向性を提示している。
これ等の用例はそもそも『現代用語の基礎知識』の中に於いても矛盾
した存在であったと思われる。これ等の用例が提示されるのと並行し
て米沢嘉博によるマンガ用語解説中【やおい】項の補足説明(本編3で
引用した91〜94年版記述を踏襲した『正太郎コンプレックス』を語源
とするもの)もまた継続して提示されていた。以下抜粋する。

《一九八〇年代初め、ロリコンブームに対抗して始められた半ズボン
の「少年趣味」ショタコン(正太郎コンプレックス)》
【97年版・864ページ】

《一九八〇年代初頭、ロリコンに対して始められた「少年趣味」ショ
タコン(正太郎コンプレックス)》
【98年版・1177ページ】

《一九八〇年代初頭、ロリコンに対抗して始められた「少年趣味」シ
ョタコン(正太郎コンプレックス)》
【99年版・1128ページ】

《一九八〇年代初頭、ロリコンに対抗して始まった「少年趣味」ショ
タコン(正太郎コンプレックス)》
【2000年版・1011ページ】

更に言及すれば『現代用語の基礎知識』97年版には風俗・流行→ワー
ドウォッチングと言う流れの中で項目担当者の稲垣吉彦(文教大学教
授・当時)がショタコンについて、
「幼い少年を「可愛い、カッコいい」と好む女性たちの性向。ロリコ
ン(ロリータコンプレックス)の男女の立場の逆転。「ショタ」とは
漫画「鉄人28号」でリモコンを操っていた少年正太郎で、小学生から
中学生のこの年頃を代表するキャラクター。正太郎を知っているのは
三十代くらいから。漫画同人誌販売会に集う女性の間に言われはじめ
たことばだという。」(833ページ)
と解説している。この記述は後年稲垣が自著として刊行した『平成・
新語×流行語小事典』(講談社現代新書・99年4月20日初版)にもその
まま再録されている。(209ページ『平成8年』項)
この項目記述を否定する形で98年以降の記述が成立したとしても、
では91年から掲載されている米沢の提示した定義とはどう折り合いを
つけるのかと言う疑念が残る。
この当時『若者用語』解説を担当していたのは明治大学教授・堀内克
明であるがこの変遷過程と彼が編集執筆に携わった英語関連の辞典内
の記述を照合してみると実に興味深い結果が得られるだろう。

『最新英語情報辞典』(小学館・83年1月10日初版)
堀内克明・高田清純・フレックスナー,S.B.編
1136ページ【short eyes】項
「《米俗》子供に対する性犯罪者→刑務所内での俗語」

『プログレッシブ英語逆引き辞典』
(小学館・99年7月1日初版)國廣哲彌・堀内克明編
434ページ【eyes】項→【short eyes】
「《米俗》子供に対する性犯罪者」

また、他の辞典も参照文献として提示する。こちらとの比較もまた興
味深い。

『三省堂 ニューズ英語辞典』
(三省堂・86年9月1日初版)磯部薫編
733ページ【short】項内活用一覧〔short eyes〕
「【米俗】子供に性的ないたずらをする人」

『米英タブー表現辞典』
(大修館書店・87年5月20日初版)
本名信行・鈴木紀之訳
285ページ【SHUT EYES】解説文参照
「アメリカでは、子供に性的ないたずらをする者を遠回しにSHORT EYES
(小さい目つむり人)と呼ぶ。」

なお、これ等の記述に先立って1975年にはアメリカにおいてピニェイ
ロ作の戯曲『ショート・アイズ』が発表されている。この戯曲は77年
にはアメリカで映画化され、本邦では81年に文学座によって初演され
ている。内容は後述URLを参照されたし。タイトルの意は『最新英語
情報辞典』が指し示す通りである。
これ等辞典類の記述から『現代用語の基礎知識』に於ける記述を導き
出す事が出来るかどうかは、…もう申し上げずとも良いと筆者は感じる。
補足として申し上げれば、『現代用語の基礎知識』に於いて【ショート
アイズ】或いは【ショートアイズ・コンプレックス】なるカタカナ語
(外来語)が解説された事は一度として無い。
さて、『現代用語の基礎知識』【ショタコン】項の記述はその後どう
なったか。結果として米沢嘉博の書いた【やおい】項補助説明の一節
のみ記述として残り、2002年米沢がマンガ用語解説担当者の座を退く
まで変わらず、2003年以降はマンガ文化用語担当者他誰人の手によっ
ても該当する記述は為されていない。
(2003年版担当…鶴岡法斎、2004年版以降2009年現在まで担当…秋田孝宏)
参考までに米沢による2001年と2002年の記述を抜粋する。

《一九八〇年代初頭、ロリコンに対抗して始まった「半ズボン少年趣
味」ショタコン(正太郎コンプレックス)》
【2001年版・1260ページ】

《1980年代初頭、ロリコンに対抗して始まった「少年趣味」ショ
タコン(正太郎コンプレックス)》
【2002年版・1305ページ…年代表記ママ】

※参照:筆者記述ブログ記事
http://xqosy.seesaa.net/article/9415587.html
http://xqosy.seesaa.net/article/30145296.html

*ピニェイロ紹介ページ

▼文学座上演記録【一九八〇年代】


※傍注六補足
なお、米沢がマンガ用語解説担当を退いた事に伴い『現代用語の基礎
知識』から一時【やおい】他関連事項の解説が消えた時期がある。
2003年版及び2004年版がそれに当たる。
その後2005年版マンガ文化用語欄に【ボーイズラブ】項が登場し、そ
の内容を簡略化したものが2006年版以降巻末のカタカナ語外来語辞典
に収録された。2006年版より現在までカタカナ語外来語辞典部分を担
当しているのは2003年以降リセ・ケネディー(NY)辞書研究所教授に
就任している堀内克明及び大森良子である。




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