ショタコンのゆりかご・追補3
   電脳の「場」〜クリスマスウェブ、そして…〜
                     ぶどううり・くすこ

こうやって書面にて色々追想させて戴いている筆者でございますが、
出自はと申せばインターネットウェブの一隅で一次二次を問わぬ掌編
創作を出力していた身であります。同人誌に触れる機会は持っていま
したが果たして純粋に同人作家と定義できるかどうかは人により判断
の分かれる所でありましょう。
その身故に気掛かりがひとつ残っております。
本編4では諸事情によりインターネットウェブ上でのショタ創作の状
況について詳しく触れませんでした。編集の趣旨と方向性もございま
したから。
そこでこの稿でしばし追憶がてらあるインターネットウェブ上で展開
されたイベントの事を振り返り、往時の状況判断の一助として供した
いと思います。

インターネットウェブ上でイベントを開催する。
一口に申し上げれば非常に簡単な事であるかの様に思われます。少な
くとも生身を用いず、そして作業にある程度の(電脳補助による)素
早さを確保できる為、作品と参加者さえ集まれば容易に成功を導く事
が出来るであろうと。
そこで筆者は申し上げます。そう言う考えは絵に描いた餅そのもので
ありますよ、と。参加者と作品と場所さえあればイベントが成立する
というものではありませんから。
インターネットウェブ上でイベントを開催するという事は、事務処理
の部分をある程度電脳で簡便化しただけの事で、生身の世界で同人誌
即売会=イベントを開催するのとなんら変わらぬ労苦を背負う事であ
ります。所謂「祭」なら何処かで始まって三々五々と参加しつつ盛り
上がり、そして皆が飽きれば一抜けたを繰り返して徐々に終息する事
ができるでしょう。しかしイベントと言う形になれば始まりと終わり
を明確にしないと場が残らないのです。
筆者はかつてインターネットウェブ上でクリスマス前後の期間限定で
開催されていた『クリスマスウェブ』と言うイベントに2003年から五回
参加しておりました。

クリスマスウェブ跡地(閉鎖空間)
  
このイベントを主催し、物理的に場を維持していたのは創作小説サイ
トを運営していたとは言え(漫画を中心とした)同人誌の世界では読
み専といわれる立場と認識されていた一個人でした。しかし彼は、先
立つ事二回開催されていたこのイベントを前任者から引き継いで以降、
イベントを健全に運営して行っただけに留まらず、発表される作品の
幅と門戸を広げつつショタの灯を絶やさぬ様常に最善を尽くしていま
した。全ての参加者作品に満遍なく拍手が送られる様に。
もしあの場が無ければ筆者は創作についての実験精神を半分失ってい
たでしょう。他の参加者にとってもそうであったろうと愚考します。
そのクリスマスウェブも都合七回にて終了した訳ですが、それは彼の
ひとつの思いから出た結果でした。
継続も大事だが、新陳代謝も大事である、と。
以降後継は未だ現れぬ様ですが、もしその萌芽があったならば、筆者
は山を賑わす枯れ木として参加する事でしょう。ささやかな一助とし
て。

では現在インターネットウェブ上にそれに該当する様な場があるのかと
問われれば、筆者は軽くためらいながら是と答えます。
絵画作品発表を交流の軸としたSNS・PIXVが恐らくそれに該当するだろ
う、と。
但しPIXVはショタに特化した場ではありません。あらゆる作品が集まる
場であり、ショタはその中のひとつの流れに過ぎないのです。その一点
を忘れショタ至上主義を推し進めようとすれば歪みは当然生じましょう。
その他お絵描き掲示板或いはお絵描きチャットを軸とした個人運営の交
流サイトも散見されてますが、継続は良しとして育成に直接繋がるかと
言えば素直に頷き難いのが現状です。
生み出されたショタ創作を作品として観るのではなく商品或いは流通製
品として認識する方が徐々に増えている感がございますので。

物理的な距離を跳躍する事の出来る電脳の場であるからこそ、自分好みの
作品だけを作らせるパトロン然として振舞うのではなく、伸ばすべき所は
伸ばす様に創作者を遇する暖か味が欲しい、と感じるのです。
筆者がクリスマスウェブで感じていたのは、そう言う静かな暖か味でした
から。



             (2009年8月17日脱稿)
             (初出:冊子増補改訂版/2009.9.20発行→UP)

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