ショタコンのゆりかご・2
〜ショタ表現の発育〜
ぶどううり・くすこ

第一回目ではショタコンと言う言葉が生まれた瞬間と、
ショタコンと言う言葉をめぐり様々な思いが行き交っ
たということをお話ししました。
そこまでを踏まえて今回はショタコンという言葉の発
育過程を見て行きたいと思います。筆者の守備範囲が
商業出版物寄りですので視点のかたよりがあることを
お許し下さい。

80年代前半、ショタコンという言葉は生みの親によっ
て意味合いに大きな幅を持つように育てられました。
81年5月に『ふぁんろーど』誌上で初めて登場したその
後82年1月号および84年1月号誌上にて「ショタコン特
集」が組まれましたが、その一連の内容はアニメ・漫
画のキャラクターから洋画の子役までを含む少年全般
に対する愛着にあふれたものでした。
資料から見る限りでは《ショタコン》と言う言葉の下
に二次元への愛着も三次元への愛着もまとめられてい
た、と言う感じでございましょうか。

そして、この後ショタコンという言葉の流れはふっと
途切れていたかのように見えます。少なくとも80年代
終盤頃まで。ただしこれはあくまでも筆者がみてきた
商業出版と言う流れの中の話であって、この期間に同
人誌界隈でどういう動きがあったかとうかがい知るこ
とができる資料をあいにくと筆者は知らないのです。
そこで改めて商業出版の世界をみますと、80年代後半
にひとつの動きがありました。
同人誌アンソロジーの誕生です。

80年代中盤に同人誌の世界で「キャプテン翼」のやお
い二次創作を中心とした流れがありました。それを背
景として87年1月24日、日本初の商業同人誌アンソロジ
ー『つばさ百貨店』(別冊COMIC BOX 1・ふゅーじょん
ぷろだくと刊)が誕生しました。
この同人誌アンソロジーと言う出版形態は二次創作ジ
ャンル内の同人誌の中から版元が作品を選抜し、一冊
の本にまとめて商業流通に乗せたものでございます。
ここでショタコンの要素を含むジャンルと言う事で焦
点を絞り、改めて同人誌アンソロジーの中での流れを
検証してみます。
「キャプテン翼」と「聖闘士星矢」の流れが前後して
発生し、それを追いかける様にして「鎧伝サムライト
ルーパー」の流れが発生します。この三ジャンルに関
して私見を言えば、キャラクターの年齢的に見ればシ
ョタコンと認識できなくは無い、と言う範囲のもので
す。「キャプテン翼」に関して言えば先のふぁんろー
どの特集二回ともにショタコン要素ありと認識されて
おりましたが。
対して星矢やトルーパーは少年よりもやや青年よりの
世界と言う認識が強かったように記憶しております。
それと前後するように「魔神英雄伝ワタル」「魔動王
グランゾート」(傍注一)の流れが発生しました。
恐らく明確にショタコンを意識した流れはこの二ジャ
ンルから始まったのではないでしょうか。主人公が少
年であるという前提でさまざまな同人設定が試みられ
ていた感がございます。
同時期にショタコン要素が前に出ていた作品・ジャン
ルといえば「ミスター味っ子」でございますが、ジャ
ンル単独アンソロジー発行は確認する限り無かったよ
うです。複数ジャンル相乗りのアンソロジーには再録
されております(傍注二)。ジャンルとしての規模が
小さかったかと問われると、そうでもなかったような
感があるのですが。
閑話休題。同人誌アンソロジーの流れが出来てしばら
く後、一つのテーマの下に描き下ろされたオリジナル
作品群を雑誌形態ではなく書籍形態で商業流通に載せ
た出版形態、オリジナルアンソロジーと言う流れも派
生しました。
この流れからショタコンアンソロジーも後日派生した
のです。

ここまでの状況を背景として、94年10月15日、一冊の
特集アンソロジーが世に出ました。
青磁ビブロス発行『b-Boy 17 特集 ショタコン』。
ショタコンを前面に押し出した雑誌あるいはアンソロ
ジーの最初の一歩です。
ただ、この特集号に掲載された読者からの便りにいわ
く。
『ショタコンとは何ですか?』
この一言から察しますに、その当時のショタコンに対
する正確な認識はまだまだ一部の人の間にのみ留まっ
ていた感もあります。

その頃『現代用語の基礎知識』では《ショタコン》と
はなんぞやと軽く説明されていました。独立用語では
なく、《やおい》の解説の一部としてですが。
91年版において初めて記述された時には、
“ロリコンに対抗する少女たちの「少年趣味」をショ
タコン(正太郎コンプレックス)と、かつて呼んでい
たが、”
と、記されております。
翌年発行の92年版では、
“ロリコンに対抗して少女たちが「少年趣味」をショ
タコン(正太郎コンプレックス)と1980年代初頭呼ん
でいたが、”
と変化し、続く93年版では、
“ロリコンに対抗して「少年趣味」をショタコン(正
太郎コンプレックス)と80年代初め女の子たちは呼ん
でいたが、”
と微妙に文脈が具体的になりつつ語源などには触れら
れず、と言う感じで変化して行きました。
そして、94年版では、
“1980年代初め、ロリコンブームに対抗して半ズボン
の「少年趣味」をショタコン(正太郎コンプレックス)
と少女たちは呼んでいたが、”
とかなり具体的な要素を提示した解説がなされるよう
になりました。
これらの記述を含む「マンガ文化用語」の解説を担当
したのは当時のコミックマーケット代表であり同人誌
研究の大家でもあった故・米沢嘉博さんでありました。
この一連の記述が当時のショタコンと言う言葉の状況
を示すものではなかったか、と筆者は感じます。

さて、青磁ビブロスからショタコン特集が刊行された
翌年の95年4月25日、エイコー出版より「ショタコン
ONLYアンソロジー」と銘打たれた『TIP TAP』が創刊
されました。
あえなく3号で休刊になってしまったものの、ショタ
コンを主題にしたシリーズアンソロジーが発行された
のは『TIP TAP』が初めてだったのです。このアンソロ
ジーの存在がなければ今に至るショタコン商業誌アン
ソロジーの流れが存在しえたかどうかは想像できませ
ん。
版元が同人誌印刷所・曳航社の系列会社であったがゆ
えに当時二次創作を行っていた作家さんたちへのつな
がりが確保された環境が幸いしたのではないか、とう
かがえます。
『TIP TAP』は雑誌の性格を持ったアンソロジーとして
企画されていたようです。読み切り作品中心ではなく、
連載を意図した作品が数作収録され、また読者投稿募
集告知や新人投稿募集告知もされていた本でした。第
三巻以降そのまま継続していれば募集された投稿によ
る読者コーナーのページも存在していたのかもしれま
せん。
この本が非常に前向きな姿勢で発行されていたらしい
ことがこれらの点からうかがえます。

そして、これ以降ショタコンの流れは90年代半ばから
じわじわと展開してゆくこととなります。次回は、
『TIP TAP』以後のショタコンの流れをみることで現
在に続く流れの一端をみてみたいと思っております。
よろしければお付き合い下さい。



 『ファンロード』1月号(ラポート・84.1.1発行) <ショタコン特集>グラビア『ファンロード』1月号(ラポート・84.1.1発行) <ショタコン特集>グラビア 
 『ファンロード』1月号(ラポート・84.1.1発行) <ショタコン特集2>グラビア


参考文献;
 『ふぁんろーど』1月号(ラポート・82.1.25発行) 『ふぁんろーど』1月号(ラポート・82.1.25発行)


 『ファンロード』1月号(ラポート・84.1.1発行) 『ファンロード』1月号(ラポート・84.1.1発行)


 つばさ百貨店 (別冊COMICBOX 1・ふゅーじょんぷろだくと・87.1.24初版) 
 『つばさ百貨店』
 (別冊COMICBOX 1・ふゅーじょんぷろだくと・87.1.24初版)

『現代用語の基礎知識1991』
(自由国民社・91.1.1初版)

『現代用語の基礎知識1992』
(自由国民社・92.1.1初版)

『現代用語の基礎知識1993』
(自由国民社・93.1.1初版)

『現代用語の基礎知識1994』
(自由国民社・94.1.1初版)


 『b-Boy 17 特集 ショタコン』 (青磁ビブロス・94.10.15初版)
 『b-Boy 17 特集 ショタコン』 (青磁ビブロス・94.10.15初版)


 『TIP TAP』1〜3 (エイコー出版・95.4.25〜96.3.30)
 『TIP TAP』1〜3 (エイコー出版・95.4.25〜96.3.30)




初出;
少年系総合同人誌即売会“ショタスクラッチ2”カタログ
(2007.2.12発行)

増補改定;
ショタコンのゆりかご(暫定版)
(2007.9.16発行@CUTE☆3rd)

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